日々の生活

それの正しい使い方

駅のトイレで、化粧直しをしていた女性ふたり組の会話が聞こえてきた。「前から謎やってんけど、多目的トイレにある大きな洗面台みたいなの、あれは何なん?」「ああ、あの便器の隣にあるやつね」 オストメイトのための汚物流し台のことだろう。オストメイト…

大人がなりたい職業

ショッピングモールのイベント広場に幼稚園児が書いた七夕の短冊がたくさん飾られていた。「アイスクリームになりたい」(「屋さん」が抜けているのかな?)「すみっコぐらしのとんかつになりたい」「いもうとになれますように」幼い子どもの願い事は本当に…

定年退職したら、したいこと

四、五十代となると、定年退職後の生活を想像することがあるという人は少なくない。昼の休憩室で、同年代の同僚と「定年になったら、なにがしたいか」というテーマで盛り上がった。「老後は好きなだけゲームをする。認知症予防にもなるし」と誰かが言ったら…

大食いと恋のチャレンジ

ひさしぶりに御座候を買って帰ったら、包みの中に紙が一枚入っていた。公募した御座候にまつわるエッセイの中から選ばれた一編が掲載されており、年配の男性が大学生だった頃の思い出をつづったものだった。御座候によく似た大判焼の店があり、十個食べると…

男性の前開き事情

年下の同僚が「最近、だんなが怪しいんですよね」と言う。彼女のシフトをやたらと気にし、夜勤の日にはきまって飲みに行くらしい。「でもそれだけじゃあなんとも。“鬼の居ぬ間に洗濯”かもしれないし」「誰が鬼ですか」相手の“匂わせ”では?と思うようなこと…

キラキラの記憶

先日、作家の林真理子さんが日本大学の次期理事長に決まったというニュースが流れた。前理事長による脱税事件などの不祥事を受け、七月から新体制を発足するにあたっての人事であるが、林さんは二〇一八年に日大アメフト部の悪質タックル問題が起きたときか…

落書きに魅せられて。

次の休みが待ち遠しい。大阪で開催中の『バンクシーって誰?展』に行こうと友人と話しているのだ。バンクシーは世界各地に神出鬼没に現れ、街中の壁をキャンバスにする正体不明のストリートアーティスト。赤い風船に手を伸ばす少女の絵をあなたも見たことが…

よりによって……

休憩室のテレビをつけたら、お昼のワイドショーは今日も阿武町の誤送金騒動の話題だ。容疑者の同級生が「パチンコや競輪が好きで、友達からお金を借りていた」「小学生の頃からお金への執着がすごかった」とインタビューに答えるのを見ながら、同僚が言う。…

勝負パンツと三軍パンツ

同僚が昨日はむしゃくしゃして眠れなかったという。午後、布団を取り入れようとベランダから身を乗り出して、ぎょっとした。彼女はマンションの二階に住んでいる。真下の部屋には小さな庭があるのだが、その芝生の上に女性の下着が落ちていたのである。目を…

踏みとどまる愛

「オードリー・ヘプバーンってむちゃくちゃ可愛いですね。あの髪型が似合うってすごくないですか」同僚が興奮気味に言う。なにをいまさらと思ったら、一昨日の金曜ロードショーで『ローマの休日』を初めて観たらしい。そうか、二十代だとあの映画を知らない…

ドッキリはいらない。

「ウソ告」という言葉を初めて聞いた。好きでもない人にラインなどで告白をして、相手のリアクション後に嘘だとバラすイタズラだという。それが友人の子どもが通う中学校で流行っているらしい。トーク画面のスクリーンショットはもちろん拡散される。そんな…

あなたがおばさんになっても

読売新聞紙面の「小町VOTE」というコーナーに、「『そのバッグかわいいね』など持ち物を褒めたときに、『これ、安かったの』と答える人の気持ちが知りたい。謙遜なのか自慢なのか、判断がむずかしい」というトピが載っていた。即座に「え、そりゃ自慢でしょ…

何を笑うかで、その人柄がわかる。

職場の後輩の話である。残業を終えて帰宅すると、五分も経たないうちに玄関のベルが鳴った。インターホンに出ると、「上の階に引越してきた〇〇です」と男性の声。ドアを開けると、大柄な若い男性が立っていた。が、なんだか変。とくに話すこともないから切…

忘れられない給食の味

昼の休憩室で、同僚が冷蔵庫から取り出した食後のデザートを見て、声があがった。「それ、とくれんやん!」「ほんまや、懐かしい。いまもあったんやー」「そうやねん、スーパーの催事みたいなとこで売ってるの見かけて、買わずにおれんかったわ」「とくれん…

桜餅の葉っぱ、食べますか?

ナースステーションの受付には「職員へのお心づけは固く辞退申し上げます」と貼り紙がしてある。しかし、患者さんやご家族から「感謝の気持ちだから、どうしても受け取ってほしい」と言われることも多く、お菓子はありがたくちょうだいしている。今日もお昼…

服装は語る

先日、小学校の卒業式に出席した。一丁前にスーツを着、緊張した面持ちで体育館に入場してくる子どもたちを拍手で迎えながら、もう胸に込み上げてくるものがある。「みんな、大きくなったなあ」そのとき、ある男の子に目が留まった。ジーンズにトレーナーと…

愛子さまの成年会見に寄せて

先日テレビで、天皇皇后両陛下の長女、愛子さまの成年会見を見た。新聞やネットニュースで愛子さまの写真を目にすることはあっても映像はひさしぶりだったため、とても驚いた。えっ、いつのまにこんな立派なお嬢さんになっていたの、という感じ。ユーモアを…

「マーガリンは毒なので食べません」に思う。

先日、小学校教員のあるツイートがネットニュースで取り上げられていた。 「今日の給食に出てくるマーガリンは毒なので食べません」と申し出た子どもがいた。嫌いな食べ物を無理矢理に食べさせる指導は元々していないので、その子は食べなかったのだが、周り…

学歴フィルター

読売新聞には就活中の大学生を応援する紙面がある。私はバブル崩壊後の就職氷河期世代。いまの就活生はまずリクナビやマイナビといった就職情報サイトに登録、SNSを駆使して企業研究したりエントリーしたりするから、パソコンやスマホがなかった頃の就活風景…

それはかけがえのないものだから。

昼休みに同僚何人かで話していたときのこと。もうすぐ産休に入るスタッフに赤ちゃんの名前は決まったのと誰かが訊いたところ、「それがね、聞いてくださいよ」と彼女。性別が判明する前から、女の子なら夫が、男の子なら彼女が名前を決めると話していたため…

利き手の壁

昼食の配膳中、「お箸ください」と声がかかった。「出してませんでしたか、すみません」ふと顔を見ると、初めましての患者さんだ。言葉がたどたどしく、右半身に麻痺があるよう。そうだ、朝の申し送りで十時入院の患者には脳梗塞の既往があると言っていたっ…

それは夕食のおかずになるか

「うそでしょー、もうこんな時間!」帰り支度をしていた同僚が悲痛な声を上げた。オペも検査もない日曜は早く帰れることが多いのだが、その日は日勤終了間際に緊急入院が二件あり、二十時を過ぎてしまった。彼女はこれからスーパーに駆け込み、夕食の準備を…

サクラサケ

いよいよ来週から、私立大学の一般選抜が始まるらしい。子どもが遠方の大学を受験するという同僚が、前日に泊まるホテルについて話していた。そうそう、ホテルの玄関に“○○大学受験生御一行様歓迎”という札が掛かっているのを見かけるよね、と思いながら聞い…

「お酒を飲めない人は人生半分損」論

出勤したら、ナースステーションの机の上にミネラルウォーターのペットボトルが並んでいた。どうしてこんなところにと思っていたら、「中身は水じゃないよ」と夜勤明けの同僚。え、「富士山の天然水」じゃないの?「それ、全部お酒」と言うからびっくり。夜…

ペットの不幸と喪中はがき

同僚の話である。毎年かならず元日に年賀状をくれる知人から今年は届かず、体調でも悪いんだろうかと気にしていたら、しばらくしてはがきが届いた。十二月に長く飼っていた犬を亡くし、新年のあいさつを控えていたことを知らせる内容だった。会ったこともな…

お里が知れる

年下の友人が派手な夫婦ゲンカをしたという。発端は、保育園に通っている子どもの食事中の行儀がよくないと先生に指摘されたこと。「大人がしていることを見て自然にマナーを身につけていくことも多いので、お父さんお母さんがお手本になって、声かけしてあ…

困った贈り物

電車の中で、年配の女性二人の会話が盛り上がっていた。息子夫婦がマンションを購入したため押し花を額に入れたものを贈ったのだが、飾ってくれているのを見たことがない、と憤慨している。「押し花って、新聞に挟んでおけばできあがるんじゃないの。ガーベ…

関西人は一日にして成らず

病室を訪ねると、Aさんはラジオを聴いていた。先週も同じ番組を聴いていたなあと思い、「面白いですか」と尋ねたら、意外な答えが返ってきた。「実はね、話の内容、半分もわかってないのよ。この人たち、とっても早口なものだから」とおっとりと笑う。Aさん…

クラウドファンディングと違和感

同僚の話である。彼女は一年ほど前に、クラウドファンディングで「訪問看護ステーションを開設したい」というプロジェクトに出資した。しかし、お礼のメッセージが届いてから活動報告があったのは数回で、春以降はなしのつぶてだという。計画では六月開設と…

和式トイレのレバー問題

膝の手術を控えた患者の自宅のトイレが和式であるとわかり、カンファレンスで「洋式に替えないと、家には帰れないね」と話していたときのこと。「それにしても、よくあの年齢まで和式でこられたなあ。私なんか、駅のトイレで和式が空いてても使わないよ。足…