仕事(看護師)

欲しいのはオンとオフ

昨春、病院勤務から訪問看護に移った友人がもう転職を考えているという。ステーションが二十四時間体制をとっているため、月に五、六回オンコール当番が回ってくる。それが苦痛でたまらないらしい。「いつ呼ばれるかわからないと思ったら、気が休まらない」…

カバンの中の「そんなもの」

以前から不思議に思っていた。彼女とは夜勤入りのときにロッカールームでよく会うのだが、いつも「いったい何泊するの?」と訊きたくなるくらい大荷物なのだ。その日も私のトートバッグの三倍はあるスポーツバッグをかついで病棟に上がろうとしていたので、…

大人になって夢を追う

このところ、芸能人が大学や大学院に入学したという話題をネットニュースでよく見かける。高校を卒業して就職する人より進学する人のほうが圧倒的に多いから、鈴木福くんや本田望結さんがどこそこ大学に入学と聞いてもへえと思うくらいだが(芦田愛菜さんは…

考え方のクセとメンタルの保ち方

夜勤で午後に出勤したら、待ってましたという感じで仲良しの同僚がやってきた。「〇〇さん、異動だって」今朝の朝礼で発表があったらしい。循環器病棟で退職者が出て、さらにもうすぐ産休に入るスタッフがいるという話は聞いていたから、どこかの病棟から補…

テレビドラマとリアリティ

若い同僚が新ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』の視聴をギブアップしたという。彼女はヒロインと同じ九州の地方出身なのだが、その方言が聞くに堪えなかったらしい。同じドラマを見ている別の同僚が、「あなたも地元の友だちとしゃべるときは、自分のことを『…

やらずの後悔

読売新聞の「小町拝見」欄で、タレントの光浦靖子さんのコラムを読んだ。三十代の頃、「いい歳してみっともない」と思われるのが怖くて恋愛に踏み込めなかったが、四十代になったときに「三十代なんて“いい歳”ではなかった」と気づいた。そして五十代のいま…

これより先はレッドゾーン

仕事が休みの日に家や子どものことで予定が詰まっていると、ひとり暮らしの頃を思い出して、「二十四時間を自分のためだけに使えるって、なんてぜいたくだったんだろう」と思うことがあった。自分だけなら、おなかが空かなければごはんはつくらなくていい。…

天職

夜勤の日は始業の一時間半前には病棟入りする。勤務開始までに患者の情報収集や点滴準備をしておくためだが、それが済んだら私はその日受け持つ部屋をひと回りする。ひとりひとりに「今夜は私が担当です」を伝えるのだ。その日もいつものようにあいさつに行…

夜勤明けの幸福

「えー、来月四回……」という同僚の声が聞こえてきた。次月のシフト表が配られたら、まず夜勤の回数を確認する------これは“看護師あるある”のひとつだ。夜勤は少人数ゆえ「メンバー」も重要であるが、それ以上に気になるのが「何回夜勤があるか」。身体や家…

利き手の壁

昼食の配膳中、「お箸ください」と声がかかった。「出してませんでしたか、すみません」ふと顔を見ると、初めましての患者さんだ。言葉がたどたどしく、右半身に麻痺があるよう。そうだ、朝の申し送りで十時入院の患者には脳梗塞の既往があると言っていたっ…

青春の後味

私はいま、電車とバスを乗り継いで職場に通っている。そのため、「どうして通勤に小一時間もかかるところに就職したの」と同僚によく不思議がられる。たしかに、スタッフの多くは車かバイクで通勤しており、自宅から三十分圏内という人がほとんどだ。病院は…

大門未知子にはなれないから。

女性患者の四人部屋を訪ねると、カーテン越しに世間話をしていることがよくある。そんなときは処置をしながら会話に混ぜてもらうことがあるのだけれど、今日はいつもと様子がちがった。部屋の入口で「失礼します」と声をかけた途端、話し声がぴたりとやんだ…

二・五人称の死

私が勤務している病院は、複数の看護学校の臨地実習を受け入れている。実習には基礎、成人、老年、小児、母性、精神などさまざまな種類があり、学生はトータル千時間超という厖大な時間を看護師の指導を受けながら現場で履修する。そのため、私の病棟にもし…

ばっちりメイクの文章

昼の休憩室で、「この一年、化粧品をまったく買っていない」とあるスタッフが言ったら、同意の声が相次いだ。「最低限の化粧しかしないから、ほんと化粧品代がかからなくなったね」「防護服着なきゃならないうちはまともに化粧なんかできないよ。汗でどろど…

私の知らない世界

手狭になったマンションから戸建てに移りたいと、半年前から家探しをしている友人がいる。彼女は最近、住宅ポータルサイトで理想的な物件を見つけたという。築年数、広さに間取り、駅までの距離、周辺環境、どれをとっても申し分ない。しかも予算内だったた…

ペットを理由に仕事を休めるか

夜勤明け、ナースステーションで朝の点滴準備をしていたら電話が鳴った。この時間にかかってくる外線はたいていスタッフからの急な欠勤の連絡だ。私が手を離せないのを見て、早めに出勤していた日勤の看護師が電話を取ってくれたのであるが、途中から相槌の…

仕事は3K

十四時。同僚と二人、遅い昼休憩をとっていたら、彼女が腹立たし気に話しはじめた。新規入院の患者の着替えを手伝っている最中、どうして看護師になったのかとその女性に訊かれた。小学生の頃に好きだった漫画の主人公が看護師で、憧れたのがきっかけだと答…

「知りたい」と「知りたくない」のはざまで。

出勤して、時計やら計算機やらハンコやらを入れたポーチをとろうと個人ボックスを開けたら、プリントが一枚入っていた。「健康診断のご案内」という文字を見て、始業前から気が重くなる私。またこの季節がやってきたのね……。すると、同じようにプリントに気…

昭和は遠くなりにけり

患者のケアをしていたら、一年生看護師がカーテンのすき間から顔をのぞかせた。「蓮見さん、ちょっといいですか」と手まねきするので、急ぎの用かと思ったら、「〇号室のCさんに『チリシおくれ』って言われたんですけど……」と言う。「Cさん、痰がよく出るか…

看護師あるある

それは突然やってきた。風呂上がりに髪を乾かしていたら、腰に鋭い痛みが走り、動けなくなったのだ。這ってなんとか部屋まで行き、布団に横たわった。急にいったいどうしたんだろう。いや、そういえばこのところ重だるいような違和感があった気もする。「つ…

大切なのは「そこにいる」こと

通知に気づいてラインを開いたら、めずらしいグループトークにメッセージが届いていた。看護学校の同級生がつながる学年ラインであるが、たまに学校からイベントの案内が入るくらいで、ほとんど使われていない。いつのまにか退会している人もいて、「そうだ…

最後の「ありがとう」

なにか冷たいデザートを、とコンビニの棚を眺めていたら、カラフルなパッケージのフルーツジュースが目に留まった。その瞬間、震える指で口元のストローを支え、「このジュースならなんとか飲めるの……」と微笑んでいた女性のことを思い出した。看護学生だっ…