2022-01-01から1年間の記事一覧

やらずの後悔

読売新聞の「小町拝見」欄で、タレントの光浦靖子さんのコラムを読んだ。三十代の頃、「いい歳してみっともない」と思われるのが怖くて恋愛に踏み込めなかったが、四十代になったときに「三十代なんて“いい歳”ではなかった」と気づいた。そして五十代のいま…

〆切りというもの。

私は作家のエッセイを好んで読む。で、誰のエッセイでもお目にかかるのが「〆切りが迫っているのに、どうしても書けない」という話だ。あるとき、林真理子さんはある有名歌手からヒップホップの作詞を依頼された。「メロディを口ずさめば詞は浮かんでくるだ…

金魚すくいの哀れ

仕事の行き帰りに通りがかるマンションには小さな池がある。直径五、六メートルの人工の水場だ。昨日もいつものようにその横を通り過ぎようとしたら、年配の男性が柵から身を乗り出すようにして水面を眺めているのに気がついた。なにを見ているんだろうと目…

LINEが既読にならなくて

お昼のマクドナルドに入ったら、近くの大学の学生と思しき女の子たちの会話が聞こえてきた。「既読無視のほうがまだましだよ、『返事がないのが返事なんだな』ってあきらめがつくもん」「わかる。未読のままだと『忙しいのかな』とか『スマホが壊れたのかも…

箱パカプロポーズ!

カンファレンスから戻ると、待ってましたとばかりに一年生看護師から声がかかった。「○号室のAさん、明日オペなんですけど、指輪が抜けないんです。石鹸でもぜんぜんダメで」手術中は体がむくみやすい状態にあるため、指輪がきつくなって指先の血行障害が長…

書き手が性別を明かさない理由

ひょんなことから、『鬼滅の刃』の作者が女性であると知った。えっ、あのペンネームで?と驚いて、さっそく漫画好きの同僚に話したところ、「そうだよ。知らなかったの?」とこともなげに言う。「吾峠呼世晴」という名前を見て、「あら、女性なのね」と思う人…

それの正しい使い方

駅のトイレで、化粧直しをしていた女性ふたり組の会話が聞こえてきた。「前から謎やってんけど、多目的トイレにある大きな洗面台みたいなの、あれは何なん?」「ああ、あの便器の隣にあるやつね」 オストメイトのための汚物流し台のことだろう。オストメイト…

これより先はレッドゾーン

仕事が休みの日に家や子どものことで予定が詰まっていると、ひとり暮らしの頃を思い出して、「二十四時間を自分のためだけに使えるって、なんてぜいたくだったんだろう」と思うことがあった。自分だけなら、おなかが空かなければごはんはつくらなくていい。…

大人がなりたい職業

ショッピングモールのイベント広場に幼稚園児が書いた七夕の短冊がたくさん飾られていた。「アイスクリームになりたい」(「屋さん」が抜けているのかな?)「すみっコぐらしのとんかつになりたい」「いもうとになれますように」幼い子どもの願い事は本当に…

定年退職したら、したいこと

四、五十代となると、定年退職後の生活を想像することがあるという人は少なくない。昼の休憩室で、同年代の同僚と「定年になったら、なにがしたいか」というテーマで盛り上がった。「老後は好きなだけゲームをする。認知症予防にもなるし」と誰かが言ったら…

大食いと恋のチャレンジ

ひさしぶりに御座候を買って帰ったら、包みの中に紙が一枚入っていた。公募した御座候にまつわるエッセイの中から選ばれた一編が掲載されており、年配の男性が大学生だった頃の思い出をつづったものだった。御座候によく似た大判焼の店があり、十個食べると…

男性の前開き事情

年下の同僚が「最近、だんなが怪しいんですよね」と言う。彼女のシフトをやたらと気にし、夜勤の日にはきまって飲みに行くらしい。「でもそれだけじゃあなんとも。“鬼の居ぬ間に洗濯”かもしれないし」「誰が鬼ですか」相手の“匂わせ”では?と思うようなこと…

義理読み無用

同僚が休日に京都に行ってきたという。風情のある街並みを散策しながら、「せっかく来たんだから京都らしい店で食べようよ」ということになり、町家造りの小料理屋風の店の暖簾をくぐった。落ちついた雰囲気に「高かったらどうしよう」と話しながらふと見る…

キラキラの記憶

先日、作家の林真理子さんが日本大学の次期理事長に決まったというニュースが流れた。前理事長による脱税事件などの不祥事を受け、七月から新体制を発足するにあたっての人事であるが、林さんは二〇一八年に日大アメフト部の悪質タックル問題が起きたときか…

落書きに魅せられて。

次の休みが待ち遠しい。大阪で開催中の『バンクシーって誰?展』に行こうと友人と話しているのだ。バンクシーは世界各地に神出鬼没に現れ、街中の壁をキャンバスにする正体不明のストリートアーティスト。赤い風船に手を伸ばす少女の絵をあなたも見たことが…

よりによって……

休憩室のテレビをつけたら、お昼のワイドショーは今日も阿武町の誤送金騒動の話題だ。容疑者の同級生が「パチンコや競輪が好きで、友達からお金を借りていた」「小学生の頃からお金への執着がすごかった」とインタビューに答えるのを見ながら、同僚が言う。…

勝負パンツと三軍パンツ

同僚が昨日はむしゃくしゃして眠れなかったという。午後、布団を取り入れようとベランダから身を乗り出して、ぎょっとした。彼女はマンションの二階に住んでいる。真下の部屋には小さな庭があるのだが、その芝生の上に女性の下着が落ちていたのである。目を…

踏みとどまる愛

「オードリー・ヘプバーンってむちゃくちゃ可愛いですね。あの髪型が似合うってすごくないですか」同僚が興奮気味に言う。なにをいまさらと思ったら、一昨日の金曜ロードショーで『ローマの休日』を初めて観たらしい。そうか、二十代だとあの映画を知らない…

ドッキリはいらない。

「ウソ告」という言葉を初めて聞いた。好きでもない人にラインなどで告白をして、相手のリアクション後に嘘だとバラすイタズラだという。それが友人の子どもが通う中学校で流行っているらしい。トーク画面のスクリーンショットはもちろん拡散される。そんな…

あなたがおばさんになっても

読売新聞紙面の「小町VOTE」というコーナーに、「『そのバッグかわいいね』など持ち物を褒めたときに、『これ、安かったの』と答える人の気持ちが知りたい。謙遜なのか自慢なのか、判断がむずかしい」というトピが載っていた。即座に「え、そりゃ自慢でしょ…

何を笑うかで、その人柄がわかる。

職場の後輩の話である。残業を終えて帰宅すると、五分も経たないうちに玄関のベルが鳴った。インターホンに出ると、「上の階に引越してきた〇〇です」と男性の声。ドアを開けると、大柄な若い男性が立っていた。が、なんだか変。とくに話すこともないから切…

読むために、書く

最近まで就職活動をしていたという大学生と話す機会があった。「内定をもらってなにがうれしいって、心おきなくSNSができるようになったことです」と言う。そっか、就活中はその楽しみも控えてがんばっていたのね……と思ったら。「企業の採用担当者に見られて…

忘れられない給食の味

昼の休憩室で、同僚が冷蔵庫から取り出した食後のデザートを見て、声があがった。「それ、とくれんやん!」「ほんまや、懐かしい。いまもあったんやー」「そうやねん、スーパーの催事みたいなとこで売ってるの見かけて、買わずにおれんかったわ」「とくれん…

桜餅の葉っぱ、食べますか?

ナースステーションの受付には「職員へのお心づけは固く辞退申し上げます」と貼り紙がしてある。しかし、患者さんやご家族から「感謝の気持ちだから、どうしても受け取ってほしい」と言われることも多く、お菓子はありがたくちょうだいしている。今日もお昼…

服装は語る

先日、小学校の卒業式に出席した。一丁前にスーツを着、緊張した面持ちで体育館に入場してくる子どもたちを拍手で迎えながら、もう胸に込み上げてくるものがある。「みんな、大きくなったなあ」そのとき、ある男の子に目が留まった。ジーンズにトレーナーと…

愛子さまの成年会見に寄せて

先日テレビで、天皇皇后両陛下の長女、愛子さまの成年会見を見た。新聞やネットニュースで愛子さまの写真を目にすることはあっても映像はひさしぶりだったため、とても驚いた。えっ、いつのまにこんな立派なお嬢さんになっていたの、という感じ。ユーモアを…

「マーガリンは毒なので食べません」に思う。

先日、小学校教員のあるツイートがネットニュースで取り上げられていた。 「今日の給食に出てくるマーガリンは毒なので食べません」と申し出た子どもがいた。嫌いな食べ物を無理矢理に食べさせる指導は元々していないので、その子は食べなかったのだが、周り…

学歴フィルター

読売新聞には就活中の大学生を応援する紙面がある。私はバブル崩壊後の就職氷河期世代。いまの就活生はまずリクナビやマイナビといった就職情報サイトに登録、SNSを駆使して企業研究したりエントリーしたりするから、パソコンやスマホがなかった頃の就活風景…

天職

夜勤の日は始業の一時間半前には病棟入りする。勤務開始までに患者の情報収集や点滴準備をしておくためだが、それが済んだら私はその日受け持つ部屋をひと回りする。ひとりひとりに「今夜は私が担当です」を伝えるのだ。その日もいつものようにあいさつに行…

それはかけがえのないものだから。

昼休みに同僚何人かで話していたときのこと。もうすぐ産休に入るスタッフに赤ちゃんの名前は決まったのと誰かが訊いたところ、「それがね、聞いてくださいよ」と彼女。性別が判明する前から、女の子なら夫が、男の子なら彼女が名前を決めると話していたため…