※ 「盗まれたレシピ」のつづきです。
ある日、「お気を悪くされたら申し訳ありません」という件名のメールが届いた。
うちのサイトに長く通ってくださっている方からで、冒頭に「お伝えすべきかどうか大変迷ったのですが……」とある。なんだろう?と思ったら。
自分が利用しているブログサービスに、過去に蓮見さんのところで読んだ文章を載せているサイトがある。偶然の一致か自分の記憶違いかとも思い、しばらく読みつづけていたが、最新の日記もそっくり同じ内容で更新されたため、「これは」と確信した……ということでURLが添えられていた。
へええと思い、さっそく見に行ったところ、
「ああ、この話書いたなあ。そうそう、これも書いたっけ。あら、こっちのもそうだわあ」
とすっかり懐かしくなってしまった。
……いやいや、そうじゃあなくて。どの記事もあまりに「まんま」だったので、とても驚いた。
私の文章を読んで思うところがあり、同じテーマで自分も書いてみた、ということなら歓迎するが、起から結に至る過程、肉付けのために挿入している個人的なエピソードやエッセイの引用箇所まで同じとなると話は別だ。
そのブログの開設初日の挨拶文にはこんなことが書いてある。
「高尚な文章なんて書けないので、ただの愚痴とか日常とかの、糞つまらない日記になると思います」
そう前置きしてうちの文章をせっせと載せているのだから苦笑してしまう。あのー、謙遜は自分が書いたものにしてもらえませんか。
「私は、このようにweb上でブログに、日記ともエッセイともつかぬものを書こうともがいているわけですが」
いやいや、あなたはもがいてなんかいないでしょ。
ときどき「過去ログを読破しました!」と言ってもらえることがあり、ありがたいなあと思うのだけれど、こういう人がいるとログを残しておくのが嫌になる。
さて、どうしたものか。
ブログにメールアドレスの記載がなかったため、私は自分のサイトにこう書いた。
語尾をですます調に直し、ちょこっと足したり引いたりしたところで、それはあなたの文章にはならない。 |
すると、ブログはその日のうちに「404 Not Found error」になった。
しかし、こういう人はきっといまもどこかで同じことをしている。
ネットの中の顔も知らない相手だから魔が差した、というわけではたぶんない。苦心してなにかを生みだすということになんのリスペクトも感じない人は、実生活でも気が咎めることなくおいしいとこ取りをしたり、誰かのアイデアを横取りしたりできるだろう。
それに一度味をしめたら、自分で汗をかくなんてばかばかしくてできないにちがいない。
……でもね。
趣味であれ仕事であれ、真剣勝負をしている人はあなたがしたことを忘れないよ。
【あとがき】
会社勤めをしていた頃、気が向くと茶渋のついた急須や社員のマグカップを漂白することがありました。で、その日もしばらく浸け置きした後、水ですすぐために給湯室に戻ったところ、同期のA子さんが部長と話をしていたのですが、その会話を聞いてびっくり。
いつも漂白してくれているのは君だったの、と言った部長に、
「たいしたことじゃないですから。手の空いたときにやってるだけなんで」
とA子さんがさらりと答えたのですね。
あなたが漂白してくれているのなんか、いっぺんも見たことないわよ。それどころか、いつも自分が使ったコップすら洗わず、シンクに置きっぱなしで帰っているじゃないの……とあ然。
たぶん彼女は日常的に、もしかしたらほとんど無意識に、こういう小さな“おいしいとこ”や“手柄”を自分のものにしているんだろうな、と思った出来事でした。