日記サイトの寿命② ~それをしがらみにしないために~

日記サイトの寿命②


※ 「日記サイトの寿命② ~二年の壁~」のつづきです。

もうひとつの理由は、「人間関係」だ。
日記書きの友人が「どのくらいの人が自分の文章をちゃんと読んでくれているか知りたい」と、めずらしいカウンタをブログに取りつけたことがある。一定の時間が経過したらカウントされる仕組みのもので、彼女は最後まで読むにはこのくらいはかかるだろうと見込んだ「六十秒」に設定した。
すると、蓋を開けてびっくり。アクセス数がそれまでの四分の一になったという。「三十秒」に変更しても、結果は変わらず。
「つまり、いままで読んでくれていると思っていた人のほとんどがろくに読まずにバックボタンを押していたのね……」

タイトルや冒頭の文章に惹かれて「つづきを読む」をクリックしたものの、「あんまりだな」と途中でページを閉じることはままあることだ。しかし、彼女のサイトを訪れるのは一見さんよりふだんから交流のあるメンバーが多かったため、そのショックは大きかった。
「私のを読んでくれているみたいだから、○○さんのところにも行っておかないと」
「行くのをやめたらなんか思われるかもしれないから、足跡は残しておこう」
たぶんそういうことなんだろうと思ったら、彼女はコメントがついたりweb拍手(「いいね!」ボタンに相当)をもらったりしても素直に喜べなくなった。
しかし、彼女はもうひとつ気づいてしまった。自分にも、読みたいわけでもないのに巡回ルートから外せずにいる日記がいくつもあることに。
「義務感でなんて読まれたくないって思ったけど、私も同じことしてた」
義理読み、義理コメント、義理押しをすることにもされることにも嫌気がさした彼女はすべてをリセットすることに。新天地で、例のカウンタはもちろん使っていない。

日記の読み書きを趣味とする人間が集まる投稿サイトや登録型リンク集は「日記サークル」のようなもの。そこでの参加者同士の交流は醍醐味のひとつだ。
しかし、それがいつしかしがらみとなり、積み重ねてきたものを手放した書き手を何人も見てきた。
人と人が交われば「義理」や「付き合い」が生じるのは実世間と同じ。交友関係が広がると“サークル活動”はより楽しくなる一方で、コンディションによっては気疲れを感じたり、コメントの書き込みや返信が負担になったりすることがある。親しくなったメンバーの境遇や価値観に配慮して、書きづらくなるテーマや意見もできてしまう。
書くことにこだわりたい人ほど、その状況に苦痛を感じるだろう。この「書きたいもの」と「書けるもの」のギャップこそ、日記サイトの寿命を縮める最大の要因だと思う。



更新も人間関係も自分のキャパの範囲内で、無理をしない。それがこの趣味を楽しみつづけるための秘訣だろう。
私自身、時とともにそれとの付き合い方は大きく変化した。十数年前までは「書く」「読む」以外の部分にもエネルギーを注ぐ時間的、精神的余裕があった。サイト上で希望者を募り、ボウリング大会やクリスマスパーティ、泊まりがけのオフ会を開いたり、夏には海外旅行先から絵ハガキを送ったり(毎年五十枚くらい書いた)。読み手への感謝イベントでは過去ログを書籍化してプレゼントしたり、会ってみたいと思った書き手には「そちらまで行きますので!」とアプローチしてオフ会を開いてもらったこともある。
「身軽なうちにやりたいことは全部やっておこう」
と思っていた。あれだけ精力的に活動しながら日々の更新は欠かさなかったのだから、そのバイタリティには恐れ入る。

その後、出産と転職をしたら、自分のためだけに使える時間はあ然とするほど少なくなった。さて、なにをあきらめ、なにを残すか。
「自分が納得できるものを書く」だけは譲れない。だから、更新回数を減らした。ほぼ毎日だったのを週三回に、そのうち二回になり、現在は月数回。いまの生活でも、このペースなら息が上がることはない。
そして、もうひとつは「読む」ほう。
コメントをつけたりボタンを押したりはしないけれど、私には更新を楽しみにしている日記がいくつもある。
ブックマークにあるのは人柄や文章が好きで読ませてもらっているものばかり。義理読みはひとつもない。

読み手あっての日記書き。書き手あっての日記読み。私の趣味を支えてくれている人たちに、
「今日もそこにいてくれてありがとう」
と感謝しつつ、来週サイト開設二十一周年を迎える。


【あとがき】
いや、趣味でweb上に書いている日記が「飽きちゃった」で三日で終わるのはちっともかまわないのです。日記を長つづきさせることが目指すところではなくて。
残念なのは、つづけたいのにつづけられなくなること。書き手同士の交流については、ほどよい距離が良好な関係、コミュニティでの居心地のよさを保つところがママ友付き合いと似ているなと思います。
ところで、例のカウンタ。もしこの日記に設置したら……と想像すると恐ろしい。知らないほうがよいことってありますよね。