古巣に戻る

古巣に戻る


ふと思い立ってフェイスブックにログインしたら、懐かしい人から友達リクエストが届いていた。
大学時代のサークルの後輩である。気づくのが遅れたことを詫び、メッセンジャーで近況を報告し合う。

フェイスブックをしているとこんなふうに昔の友人・知人と思いがけず再会することがあるが、いつも不思議に思うのが、何十年ぶりであってもまったくそんな気がしないこと。
送信者の名前を見て顔を思い出した瞬間、あの頃にタイムスリップする。彼女とは私の卒業式以来会っていないはずなのに、例会だ合宿だテスト明け打ち上げだと一緒にわいわいやっていたのが、ほんの二、三年前のことのようだ。
サークルはいまどんな感じなんだろうねと言ったら、後輩は最近サークルに顔を出し、現役会員と話す機会があったという。
「そのときに、去年一回生の入会はゼロだったって聞いて、びっくりしちゃいました」
私も驚きのあまり、キーボードを叩く指がフリーズ。今年度、新入生の入会がなく、現在二十名足らずで活動しているだなんて。
私が在籍していた頃は、会員数百五十を超える大所帯だった。私の同期は七十名近くいたが、新入生のためのサークル説明会にはその三倍も四倍も学生が集まり、大教室に立ち見が出たことを覚えている。当時は「このサークルに入るためにこの大学を選んだ」という会員がたくさんいた。
しかし、それはいまや昔だったのである。その後ブームが去り、当時に比べて活躍の場が減っていることは知っていたが、ここまで人気が下火になっていたとは思わなかった。

思えば、あの時代がわがサークルの全盛期だったのかもしれない。マンモスサークルゆえの揉め事はあったが、大勢で切磋琢磨するのは楽しかったし、輝かしい成績を残した先輩がたくさんいて誇らしかった。そして、実力のある者にもない者にも力試しの場がいくらでもあった。
そんな華やかなりし頃を知る者としては、
「『今年はなんとしても新入生を入れなければ。サークルをつぶしたら、先輩方に申し訳ない』って言ってました」
なんて聞くと、胸がきゅっとなる。



「古巣に戻ったら、辺りの様子が一変していた」という浦島太郎のような気分はつい最近、別のことでも味わった。
私がweb日記を書きはじめたのは十九年前のことである。最も精力的に書いていたのは二〇〇五年から二〇〇七年頃で、読み手の方との交流も含めて本当に楽しかった。
ここ十年ほどは多忙その他でほとんど更新できずにいたのだけれど、このところ「書きたい」気持ちが大きくなってきたため、月に数回という頻度にはなるだろうが日記書きを再開することにした。

さて、「どこで書こうかな」とレンタル日記サービスを探す過程で驚いたことがあった。
レンタル日記サービスの草分けである「さるさる日記」が十年も前にサービスを終了しており、簡単にサイトを開設できることから多くの日記が登録されていた「Yahoo!ジオシティーズ」もまた終了していたと知ったからだ。
「ちょっと離れているうちに、web日記の世界はこういうことになっていたんだ……」
SNSが隆盛を誇るいま、これも時代の趨勢であるが、自分が何も知らずにいたことに軽いショックを受ける。

web日記の読み書きを趣味にしていた十数年前、読み物系サイトが集まるリンク集がいくつもあった。ReadMe!日記才人、テキスト庵に日記圏というのもあったっけ。そこには毎日更新する熱心な日記書きさんがたくさんいた。
「アクセスを増やす方法」は好んで書かれたテーマで、投票ボタンやアクセスランキングといった仕組みはモチベーションの維持に貢献していたのではないだろうか。日記の内容をめぐって複数の日記書きさんが議論を戦わせることもあった。書き手と読み手の交流も活発で、オフレポをよく見かけたし、日記書きさん同士の恋の噂を耳にすることもあった。「日記読み日記」なるものがあったのも、魅力的な日記がたくさんあったからだろう。コミュニティは非常に活気があった。
いまもどこかにそういう場所はあるのだろうか。

元の浜に戻った浦島太郎はあるはずの場所に家がなく、知っている人が誰もいなくなっていることを知り、竜宮城での日々が恋しくてたまらなくなった。そして、竜宮城に帰る手立てを求めて玉手箱を開けてしまう。
私は太郎のように「あの頃に戻りたい」とは思わないけれど、刺激的でおもしろかったなと懐かしくはある。


【あとがき】
上記は、二年前に書いた文章である。
「いまもどこかにそういう場所はあるのだろうか」と書いたその後も、「いや、ないだろうな」と思い、探すこともなかった。
そうしたら数日前、思いがけずこの場所を見つけた。個性豊かな、質の高いテキストが集まっていて驚いた。砂漠を歩いていたら突然、目の前に緑美しいオアシスの町が現れたような気分だ。
web日記の読み書きは一生の趣味になると思っている。豊かな水をたたえた静かな湖のほとりで、ひそやかに書いていきたい。